採用しても人が定着しない。そんな悩みの背景には、給与だけではなく、会社と社員の間にある小さなズレが隠れていることがあります。
せっかく採用した社員が、なかなか定着しない。
これは、多くの中小企業の社長が抱えている悩みです。
求人を出しても応募が少ない。
やっと採用できたと思ったら、数か月で辞めてしまう。
仕事を覚えた頃に退職され、また一から採用し直す。
この繰り返しは、会社にとって大きな負担です。
採用には時間もお金もかかります。教育にも手間がかかります。何より、現場の社員が疲れていきます。
では、従業員が定着しない会社では、何が起きているのでしょうか。
私は、そこには大きく3つのズレがあると考えています。
一つ目は、採用時の説明と入社後の実態のズレです。
求人票や面接では良いことを伝えた。けれど、入社してみると実際は違っていた。
たとえば、残業は少ないと聞いていたのに、実際は毎日遅くなる。丁寧に教えてもらえると思っていたのに、現場では「見て覚えて」と言われる。休みや仕事内容について、思っていたものと違う。
このようなズレがあると、社員は早い段階で不信感を持ちます。
人は、条件が少し厳しいからすぐ辞めるわけではありません。むしろ、「聞いていた話と違う」と感じたときに、気持ちが離れていきます。
だから採用時には、良い面だけでなく、会社の現実もきちんと伝えることが大切です。
大変なこともある。最初は覚えることが多い。繁忙期は忙しい。けれど、会社としてこのように支えていく。
ここまで伝えることで、入社後のズレを小さくできます。
二つ目は、社長の期待と社員の理解のズレです。
社長は、「これくらいは分かってくれるだろう」と考えます。
しかし、社員は社長の頭の中を見ることはできません。
どんな行動を評価するのか。
どの程度の報告を求めているのか。
お客様への対応で何を大切にしているのか。
仕事を任せるうえで、どこまで自分で判断してよいのか。
これらを言葉にして伝えなければ、社員には分かりません。
結果として、社長は「なぜ分からないんだ」と感じ、社員は「何を求められているのか分からない」と感じます。
このすれ違いが続くと、社員は不安になります。
特に若い社員や中途入社の社員は、会社独自の空気をすぐには理解できません。だからこそ、期待する働き方を具体的に伝える必要があります。
三つ目は、評価と処遇のズレです。
頑張っている社員が報われない。
声の大きい社員だけが得をしているように見える。
長くいる人だけが何となく優遇されている。
このように感じると、社員のやる気は下がります。
もちろん、中小企業で大企業のような細かい評価制度を作る必要はありません。
しかし、何を見て評価するのかという基準は必要です。
勤務態度なのか。
お客様への対応なのか。
後輩への協力なのか。
売上や成果なのか。
会社の方針に沿った行動なのか。
これが曖昧だと、社員は自分がどう頑張ればよいのか分からなくなります。
定着する会社には、共通点があります。
それは、社員が安心して働ける土台があることです。
採用時に会社の現実を伝える。
入社後に期待する行動を伝える。
評価の基準をできるだけ分かりやすくする。
この3つが整ってくると、社員は会社への信頼を持ちやすくなります。
従業員の定着は、給与だけで決まるものではありません。
もちろん給与は大切です。しかし、それ以上に、社員は「この会社で働き続けて大丈夫か」を見ています。
社長の考えが見えるか。
職場のルールが分かるか。
頑張り方が分かるか。
困ったときに相談できるか。
こうした小さな安心が、定着につながります。
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櫻井邦博